ふと脳裏に人生初の美容室へ行った時の記憶が過ぎったので今回はその話をする。初めて美容院へ行ったのは中学3年生の夏、確か1000円カッツで大失敗され母に泣きついたのがきっかけだった。

 

今まで千円カッツで済ませてた人間が、宛らラブホの様な所で綺麗なお姉さんに髪を切って貰える訳です。ついこの間まで柄の悪いパツキンの兄ちゃんに掃除機みたいなバキュームで髪の毛をワシャワシャ吸われてた人間が、綺麗なお姉さんに優しくブローして貰える訳です。手間のかかるシャンプーを霧吹きで代替されていた人間が、綺麗なお姉さんにゴシゴシと頭を洗って貰える訳です。これを‴革命‴と言わずして何が revolution で御座いましょう。俺の頭の中ではモーニング娘が、後藤真希が、安倍なつみが、保田圭が、見渡す限りの顔面偏差値中の上のメス共が、love revolution を踊っております。wowowowowowowowowowowと30過ぎのいい歳したおばさんが踊り狂っております。それはもう煉獄。地獄ではない。魂が濾過される。

 

 

そう期待を膨らませ、いざ入店。

「3時から予約の✕✕様で宜しいでしょうか?」

何が違うって受付からもう違う。受付に肉感的なお姉さんが二段構えで立ってる。これだけでもう勃起。そしてあろう事か余を‴SAMA‴呼ばわりしてきたでは無いか。何なんだこの店は。

 

 

「今回担当させていただきます、佐藤(偽名)と申します。まずはシャンプーさせて頂きますのでこちらへどうぞ」

 

そう案内されて車椅子トイレに必ず付いてる‴アレ‴と高そうな椅子を融合した感じの媒体に座らせられる。やや興奮気味で待機していると突然視界がブラックアウトした。どうやら顔にタオルを掛けられたらしい。しまった、視覚を奪われた。油断した。なんという不覚。短い人生だった。俺はもうここまでや。

 

 

「シャンプーの種類は如何なさいますか」

 

「初めてなので分かりません」

 

「…」

 

これだからマニュアル通りの人間というのは困る。俺のこの凡そ美容室とは無縁そうな顔面を見れば、この数ヶ月間放置された不潔な髪型を見れば此奴が初めての客であることぐらい一目瞭然でありましょう。アホなのか、佐藤さん。どこに目をつけてんだお前は。

 

 

その後適当に説明されたが何にも聞いていなかったので取り敢えずよく分からないラベンダーの香り(リラックス効果あり!)のシャンプーを選んだ。嗅覚を優しく刺激するラベンダーの香り、目を閉じればそこには富良野のラベンダー畑が広がっている。1面中、紫の絨毯。ああ、リラックスと謳ってるのは伊達じゃないなとしみじみ思いながら頭を洗って貰う。

 

 

「どこかお痒い所はございませんか」

 

俺が今‴痒い‴のは股間だよ、この痒みを何とかしてくれよ佐藤さん、俺は人生で初めて女に頭を洗ってもらってんだよ、勃起してるよ、もうたまんねぇんだよ、最高にハイなんだよ

 

そんな事を思ってたら勝手に洗い終えられた。これだからマニュアル通りの人間はダメだ。言われなくても「お客様の意図」ってのを汲み取らないとこの業界ではやっていけない、この業界は厳しいんだから。謂わばここは風俗、顧客を捕まえ、指名を取らなければ生きていくことはできない。お客さんに気に入られてナンボの世界、ご奉仕せな。ほら。

 

 

頭をタオルで拭かれる。まぁ及第点。この仕事に携わって数ヶ月(らしい)の人間にしては中々のテクニックだった。こいつの十年後が楽しみや…...........................………………

 

 

 

 

 

 

突如脳内を電流が駆け巡る。薄々感じていたがやはり此奴、タダもんじゃなかった。俺の頭を拭くこの瞬間に本性を現しやがった。

 

なんと耳に指を突っ込んできやがったのだ。

 

おいおい

 

 

これはもう

 

‴セックス‴じゃねぇか。

 

20代の姉ちゃんが俺の耳の穴に指を突っ込んでいる、この字面を見た諸君は今何を思うことであろう。風俗や。これはもう風俗や。思わずあうあうあ〜とだらしない声が漏れる。

 

「失礼致しました。」

 

いやいや、謝らなくていいんだよ、俺が悪いんだから。俺が今まで女の子に耳の穴の中に指を突っ込まれたことがなかったのがいけないんだから。ゴメンなさい。

 

 

そして再び佐藤さんの指が俺の耳の中に入ってくる。俺の皮膚常在菌と佐藤さんの皮膚常在菌が奇跡の出逢いを遂げる。嗚呼、今俺の耳の中では皮膚常在菌がセックスをしてるんだろうな、風俗ってこういう気分なのかなあ、なんて思いを馳せながら、俺は頭を拭かれた。

 

 

いやもう最高だね。もうこの後髪を切られすぎてパッツンになったとかそんな事どうでもいいと思った。俺の頭の中は佐藤さん一色で染まった。佐藤さん愛してる。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる

 

 

「それではもう1度頭を洗わせて頂きます」

 

 

!?!!!?!??

 

なんや、なんやなんやなんや、アレがもう1回して貰えるのか?もう1回‴セックス‴が出来るのか?

 

もう何もかも俺の思い通り。この世に未練は無い。まさに下克上。まさに成り上がり。まさに秀吉。

 

ウヘヘへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ────────────────────────────────────。

 

 

 

 

 

 

会計を済ませた後佐藤さんが出口までエスコートしてくれた。別れ際に名刺渡され初めての体験に心踊ったが冷静に思い返してみればどう考えても顧客やら指名やらの営業目的に他ならなかった。

 

やはりここは風俗だったのだ。